大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和55年(少)5040号 決定 1980年10月13日

少年 S・T(昭四〇・八・七生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成のぐ犯少年送致書記載の審判に付すべきぐ犯事実の概要のとおりであるからこれをここに引用する。

(適条)少年法三条一項二号イニ

(処遇事由)

少年は、未亡人で現在掃除婦をしている母と喫茶店店員の姉とともにアパートに居住している中学生であるが、中学一年時までは、学業不振、窃盗(車上狙)等多少の問題はあつたものの、学校及び家庭においてはいわゆる問題児ではなかつた。しかし、中学二年になつて母が昼間仕事で家を空けるようになり、姉が不純異性交遊等のため教護院に収容されたことから家庭での監督が不十分となつて、怠学、登校拒否が常態となり、三年生になつた本年四月以降は、欠席こそなかつたが、本件ぐ犯事実もその一部である校内暴力(殊に教師への暴行)が目立つようになつた。例えば、四月二一日には数学担当の教諭を体育館に呼び出し、胸ぐらをつかんで暴言をはく、四月二三日、少年のクラス担任に対し、教室の中でひざ蹴り、ひじ打ちなどの暴行をはたらく、五月七日理科担当教師に対し顔面打撲等による全治一〇日間の傷害を負わせる、九月一〇日右教師に対し角材を所持して威嚇し、足蹴りの暴行を加える等。

少年が何故このような校内暴力を繰り返すのかについては、能力が低いために授業についてゆけず、また親しい友達もなく、学校内では強い疎外感を抱いているであろうこと、家庭もまた恵まれているとはいい難く、他生徒と自分と比較した場合、諸々の妬み、嫉み、欲求不満があるのであろうこと、思春期をむかえ、一般的にも心情不安定な時期であることなど原因と想定されるものはいくつか考えられるところであるが、詳細は不明という外はない。それはともかく、初発期の教師への各暴行事件等に対しての学校側の対応が必ずしも適切ではなく、少年を増長させたため、現在では少年自身校内暴力の非なることが実感できなくなつているが如くであり、学校は少年の収容を強く望んでおり、母もまた家庭内での少年の粗暴な振舞に抗しえず、収容を希望するに至つている。そして、この方法を採つた場合、少年は中学生であるけれども、本件ぐ犯の内容が上長に対する暴行である点からして、教護・教母による家庭的雰囲気の下で指導、監護を旨とする教護院は、この種の少年を収容する施設として適当でなく、少年に対しては初等少年院送致が相当であると考えられる。もつとも、少年の校内暴力は、上記のとおり関係者の対応の不適切によりもたらされた一過性のものではないかとの疑いも払拭しえないので在院期間は卒業期ころまでが相当との短期処遇の勧告を付することとする。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 倉谷宗明)

処遇勧告書<省略>

〔参考一〕審判に付すべきぐ犯事実の概要

少年は昭和五十五年九月十一日午前十一時三十分ごろ愛知県津島市○○町×丁目××番地にある津島市立○○中学校内において同校教諭A二十八歳に対し、同人のズボンをさげる、前に立ちふさがり胸ぐらをつかんだり足蹴にするなどの乱暴をなし、その際、自己の手を窓ガラスで傷をつけ、更に、同日午後五時ごろ自宅において母親S・Z子が教諭に乱暴したことに対し、注意したところ、「うるせえなあ、黙つとれ」「てめえ気ちがいか、てめえなんか親と思つとらん、殺したろか」などと脅し、同人の胸もとを突いて転倒させ右足首を足蹴にするなどの乱暴をなし、保護者の正当な監督に服しない性癖を有するばかりでなく、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖をも有し、少年の性格または環境に照らして将来、暴行、傷害等の罪を犯すおそれがある。

〔参考二〕少年調査票、鑑別結果通知書<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例